スケジュールが遅れることはあっても前倒しになることはない
仕事で徹夜なんかしたことは一度もないという方は沢山いらっしゃると思いますが、クリエイティブな仕事に関わっている人で徹夜をしたことがない人はいないと思います。デザイナーならそんなのは日常茶飯事。納期に間に合わせるために夜を徹して無理をする訳ですが、なぜこういうことになってしまうのか、今回はそんなお話を。ただし、僕が事前に約束した納期を守れなかったということではありません。そんなことは一度もありませんのでご安心ください。進行が遅れていく理由は沢山ありますが、まずは代表的なものをピックアップしていきます。
デザイナー側の問題
<仕事をこなす時間が読めていない>
半日あればできると思っていたけど、やり始めると1日かかってしまったなんて場合。慣れていないソフトを使う時や、初めての類の案件だとそういう危険は高まります。また、ありがちなのはアイデアが出ない、考えがまとまらないという頭を使う場合も。何時間やればこれだけ進むといった作業ではありませんので、経験が浅いデザイナーだと結構難しいかもしれません。ベテランになってくると経験値があるので予想より大きくずれることはあまりありませんが、作業よりも考えることの方が大切なので、僕はできるだけ多めに時間を割くように調整しています。
<他の仕事と重なってしまった>
スケジュールの調整がきかず、他案件と重なってしまったために、どうしても通常の営業時間外に対応せざるを得ない場合。こういった場合はクライアントに正直にお話をして、物理的に進行可能なようにできる限り調整をします。もしできないようなら残念ながらお断りすることになってしまいます。これは受注側の都合ではありますが、実は発注側の問題でもあります。前回1週間でできた仕事だからといって、納期の1週間前に発注をいただいても、すぐに取りかかれないことは多々あります。普通は少し先まで予定は入っていますし、場合によっては長期的に拘束される案件もありますので、できるだけ早めにスケジュールをおさえていただくか、余裕のある進行で予定を組んでいただけると概ね回避できます。頼みたい、やりたいが成立しているのに仕事ができないのは双方にとってとても残念ですよね。
<予想以上のリテイクで進まない1>
これもクリエイティブな仕事ではありがちです。デザイナー側に問題がある場合は、しっかりと内容を把握できていない、要望を汲み取れない、形にする力がないという理由につきますが、しっかりとした実績があるデザイナーであればそういうことは少ないので、そもそも頼む人を間違っているということもあるかもしれません。やっぱり得意不得意はあるものですし。発注の時点でそのデザイナーはどういったデザインクオリティなのかを良く判断して依頼することが重要だと思います。発注側に問題がある場合も多々ありますので、それはこの後の<予想以上のリテイクで進まない2>をご参照ください。
<事故・故障・病気・不幸などのトラブル系>
これはもう突発的なことなので避けようがありません。いくら気を付けていても事故にあってしまったり体調を崩すことはありますし、パソコンが壊れた!なんてことは数年に一度は訪れます。僕もいきなり画面がシマシマになって…というような恐ろしい目に何度かあったこともあります。これも余裕のあるスケジュールを組んでいれば何とかなりますね。
クライアント側の問題
<そもそもの期間が短すぎる>
「無理なお願いは承知の上なのですが、何とかなりませんか?」な案件です。突然発生したお話かもしれませんし、うっかり忘れてたとか、素材が揃わなかったとか、いろんな理由があると思うのですが、こういったお話は後々難しくなりがちです。受注側としては断ることで「次の仕事がもらえないのでは」とか、ここで頑張れば「次につながるのでは」という気持ちになってしまうもの。僕も何度もこういったお話に対応してきましたが、結果として大抵良い方向には進みません。何とか無事に(クオリティを保って)納期内に間に合わせても、「あの納期でも何とかなる」とインプットされ、改善されるよりも、どんどん酷い状態になっていきます。
やがて限界を超えてしまい、この納期ではクオリティを確保できませんと物申すと、どんなに貢献していても、間違っていなくても、関係はギクシャクしてしまいます。こういった仕事の進め方には、本来重視すべきクリエイティブのクオリティに関してよりも「間に合う」という価値の方が高くなってしまいますので、僕としては勇気をもってお断りするようにしています。良い物を作ろうと思えば、それなりの時間は必要なはずです。「時間が無くてもなんとかしてくれる人」より、「ちゃんと時間を与えればクオリティの高いデザインを仕上げる人」でありたいと思います。
<急な話過ぎてすぐに対応できない>
先にも述べましたが、発注いただいてからすぐに対応できる場合の方が少ないです。普通は少し先まで予定がある中で仕事をしていますし、がっちり1ヶ月まるまる拘束なんて案件もありますので、とにかく事前に双方のスケジュールを調整しながら進めていくのがより良い仕事の進め方だと思います。
<楽観的過ぎるスケジュール>
ことクリエイティブな仕事においては、予期せぬことが沢山おこります。例えば印刷関連だと、入稿データを作ったあとに細かな修正が見つかってしまったり、急に変更が入ったり。やはり人間というのは、何度も確認していても、これが最後と思えばより慎重になるもので、最後の最後に修正がでてくることはめずらしくありません。
その対応で半日時間がずれてしまったりなんていうのは良くあることなのに、「何かあるかもしれない」がスケジュールに全く組み込まれておらず、データアップ→即入稿なんて進行になっていると、もうアウトです。特に余裕がない進行の場合はどこかでミスが起こりがちですから、通常よりもリスクを抱えていることを前提に少し悲観的に考えておくべきです。
<安易な修正指示>
まだ直すチャンスはあるから・・・と甘いチェックのおかげで、精査していれば一度ですむのに何度も何度も修正が発生する。なんていうケースもデザイナー泣かせです。「5文字削るだけだから簡単でしょ?」と思われるものでも、それで1行減ったりすると全体のバランスを調整しなければならなくなったりすることもあり、バランスに拘るデザイナーほど大変だったりします。
また、修正の回数が増えると、どうしても新たなミスを生む可能性も増えてしまうので、1回で修正や調整は全部終わらせるくらいのつもりでないと回数が増えるごとに精神的にも疲弊しますし、良くないことですが集中力を欠くこともあったりします。
大したことのない内容でも、その都度修正データを作り、確認用のメールを送り、複数の人がそれをチェックし、ということになり、トータルするといろんな人の時間も無駄にしてしまいますので、できるだけ修正を少なくするというのは仕事を合理的に進めるためには大切なことです。
<予想以上のリテイクで進まない2>
クライアント側の要望が曖昧だったり、話が途中で二転三転する、クオリティはあるのに決められない、担当者と確認しながら進めていたのにエラい人が急にダメ出し…などなど、クライアント側の問題でリテイクが多発!なんてこともあります。こういったことは少し余裕のある場合に発生しがちですが、納期が無い状態でこんなことになるともう地獄絵図…。こうならないためには、とにかくコンセプトを明確にすることです。個人の感覚に頼らず、全ては共有したコンセプトに照らして良し悪しや方向性を判断していくことが大切だと思います。
<優先順位が間違っている>
もう製品部材の納期が迫っているのに素材があがらず、後にずらせる販促物を先に作って欲しい!と言われた経験もありました。さすがにそれは無理ということで、まずは製品部材を完成させて、もしそれでも余裕があるなら販促物を作るという順番にしませんか。と説得して何とか進めましたが、結局あれこれ発生して予定よりも1日遅れて入稿ということに(発売には影響なし)。もし、販促物を先に進めていたらもっと遅れていた訳で、なぜそういう進め方になるのか理解できなかったのですが、頼めば徹夜してでも間に合わせてくれる!ということだったのかもしれません。それまで「対応し過ぎ」た結果が招いたこととして、以降、対応を改めるきっかけとなった一件でした。
個人の問題
<間違った達成感を追い求めている人>
ギリギリでスッチャカメッチャカになった挙げ句、何とか間に合った!時に得られる安堵感や達成感みたいなものに酔いしれている人もいます。僕はどちらかというと、そういう状況には腹が立ちます。そんなことで喜ぶのは間違っていると思うのです。本来、商品を作る作業そのものよりも、エンドユーザーにいかに喜んでもらえるか、高いクオリティの商品を提供できるかということが大切なはず。そう考えていればクオリティをいかに高めるかにのみ注力しますし、それが達成できたときにこそ満足を得られるはずです。
理想を言うなら、何の問題もなくスムースに進行し、しかもこれまでで最高の仕上がりのものができました!が一番良いわけで、それを目指さない人が実はとても多い気がします。そういう人はドタバタの苦労話は良くしますが、クオリティの話はあんまりしません。そしてまた次のドタバタ案件を生んでしまうのです。
<川の流れに身を任せ過ぎな人>
僕がコーダーなどに仕事を依頼する場合、まずは仕事の内容を明確にし、どこの部分を頼むか、それがいつまでにできそうかを依頼する人の性格やスキルをふまえて考えつつ、本人に他案件などの状況も合わせて確認し、そこに少し「何か起こるかも知れない」分も考慮した上で予定を組みます。必ず作業に関わる人に直接確認して「約束」をした上で進めていきますが、そういったことを全くしない人がいます。
金曜日の打ち合わせの時に週明けには素材をいただけるという話だったのが、実際に素材をもらったのは10日後。「私も素材上がるのをずっと待ってたんですよね〜」。でも、もう入稿予定日まで4日くらいしかありませんよ!そして、その時点で僕のスケジュールは一切聞かれていないという…。あきらかに約束を破っている人がいて、それを全部僕がカバーするしかない状況で、さすがにちょっと怒りました。制作過程の最後にいる僕が同じ事をしたら絶対に許されないでしょう。罰をくらうのは僕ではないはずですが、もう、ね
結論:
スケジューリングは「他人の時間に配慮すること」で、注力すべきは「クオリティ」である
デザイナーなんかをやっていますと、営業時間が決まっている職業の方からは考えられないようなことに追い込まれることがあるのですが、
今回はその「あるある」をつらつらと書き連ねてみました。で、仕事においてのスケジューリングを改めて考えますと、やっぱりそのプロジェクトに関わる「人の時間に配慮すること」だと思うのです。そうすることで、ムダな時間や疲弊を生まずにクオリティアップに注力できるはず。スケジュールをしっかり組まない人は、今、今日、明日、何をしないといけないかが分かっていなくて、ただずっと頑張ることで何とかなると考えているようにも思います。そういった人にはスケジュールをしっかり組めば、自分も楽になることをぜひ分かっていただきたいと思う今日この頃です。